鯉とは?
そもそも鯉とはどんな魚なのか?
学名:Cyprinus carpio (シプリヌス・カーピオ) 硬骨魚網 コイ科 コイ目の淡水魚で亜目は2500種そのうち日本には55種が生息しています。
原産地は中国から中央アジア周辺と言われ(諸説あります)日本には大陸と繋がっていた時から生息していたようで、古い地層から化石が見つかったり、縄文時代の貝塚などからも骨が発見されています。日本での分布は北海道から九州までと広く、生息する地域の環境や水質により形態が微妙に変化します。
一般的に野生のものを「野鯉」養殖ものを「大和鯉」と言い、まとめて「真鯉」と呼びます。元々「大和鯉」とは「淀鯉」「佐久鯉」と同じ様に地方種の呼び名だったようです。今では食用養殖鯉全般を総じて「大和鯉」と呼びます。これとは別に観賞用の鯉を「錦鯉」と呼びます。
英語圏に於いて食用鯉は"Carp"ですが錦鯉は"Koi"で魚病などの学術名もそのままは"Koi"と使われます。
野鯉と大和鯉は体格が違います。野鯉は体高が低くて幅が広く、吻端がやや尖っていて尾鰭が大きく全体的に流線型をしています。それに対し大和鯉は体高が高くて幅が狭く吻端が丸いです。当店でもお客さまが鯉を持ち込みで調理を依頼されるのですが、ほとんどが養殖種が放流されたものか交配を繰り返したもの等で天然の野鯉は見た事がありません。
体の側部に側線と呼ばれる一本の線がありこの部分の鱗には溝があります。この内側に線神経の末端が入っていて振動や音を感知すると言われています。
世界的に見るとアジア・ヨーロッパ、北アメリカやオーストラリアまで移入されて分布し、淡水魚の中で最も世界に広まっています。鯉は比較的に水温の上昇や水質が変化に強いので移入が行われやすいと考えられます。海外(主にヨーロッパ)では品種改良された鱗が少ない「ドイツ鯉」が広まっています。大きな鱗が数枚あるものを「カガミ鯉」全く鱗が無いものを「カワ鯉」と呼びます。日本でもドイツ鯉は存在します。日本ではその容姿からあまり好まれませんがヨーロッパでは調理がしやすいと言う理由から好まれているようです。
鯉の生態
野生に住む鯉は平野部の流れの緩やかな河川や湖沼に生息していますが僅かな塩分のある水中でも生息は可能です。水質はプランクトンの発生するようなやや水温の高い水を好みます。
雑食性でシジミやタニシ、昆虫、藻類や水草などを餌とします。歯は無く咽に五個の咽頭歯というものがあり、草などは泥ごと口に入れ泥だけを、貝類は殻ごと噛み砕き殻だけを吐き出します。鯉に胃は無く、腸の中にやや膨らんでいる部分に胃線という消化液分泌線を持っています。こういった鯉の生態上、釣ってきた鯉を清〆せずに調理すると泥臭さが残ってしまいます。ですから釣ってきた鯉は流水で7日から10日ほど泳がせ、しっかりと泥抜きをして下さい。
鯉の寿命は30から40年と言われ、長寿のもので100年以上生きる鯉もいると言われています。
鯉と健康
鯉はアミノ酸からなるタンパク質を多く含み、体内で作られない必須アミノ酸を補給することができます。肉の部分には含硫アミノ酸の一種でコレステロールの働きを抑えるタウリンも含みます。
ビタミン類では糖質を分解する酵素を助けてエネルギーに変えるビタミンB1、老化の原因と考えられる過酸化脂質が造られるのを防ぐビタミンE、カルシウムやリンの吸収を促し、骨や歯に沈着させるビタミンDなどの栄養価に富んでいます。
鯉は古くより母乳の出が良くなる食品として親しまれて参りました。私の妻の出産時に「鯉の甘煮」を食べさせようと病院に持って行ったところ医師に「奥さんの母乳の出は普通なので食べさせないで下さい。食べさせると張ってしまい痛くなるので可愛そうですよ」と言われた経験があります。母乳をしっかりと出すにはバランスの良い食事が必要となってきます。産後に鯉を食するという事は迷信や単なる言い伝えではなくしっかりとした栄養価に基づく理由があると言えます。
その他に利尿効果、むくみを取る作用、貧血防止、高エネルギー食品として滋養強壮、体力回復などに効果があると言われています。
鯉の呼び名
鯉はその土地や成長段階によって呼び名が異なります。
成長における呼び名
ふ化直後の仔鯉を水仔(みずこ)、毛仔(けご)、はだか等と呼ばれ、やや成長して3cmほどになったものを青仔(あおこ)と呼びます。その年の秋に取り揚げた鯉を新仔(しんこ)、年が明け春に放養し秋に水揚げするのですが、その際に110g前後の鯉を吸物鯉(すいものごい)260~300g程は泣き、375~400g程は中羽(ちゅっぱ)450~675g程は食用小物、675~940g程は切鯉(きりごい)1kg以上は食用大物と呼ばれます。
地方による呼び名
長崎ではサラサ、福岡でアカクチ、筑後川流域でナメイ・ナメリ、沖縄ではクイユ、東京では小さいものをハネッカエリと呼びます。
甘煮とうま煮
甘煮は醤油と砂糖、うま煮は醤油と味醂で煮たものと言われています。現在はあまり隔たりは無く、鯉を醤油、砂糖、味醂などを使って甘辛く煮たものはどちらかの名称を使うようです。
書物の中の鯉
鯉と人間のかかわりは大変深く長いです。歴史の中で記されてきた鯉について書かれている書物をいくつか挙げてみようと思います。
神農本草炎帝神農氏(伝説上の人物)
胆のうを上品、上薬として記述(現存する最古の医学書)
名医別録陶弘景 ・鯉の効用について
陶弘景も「神農本草経」と言う本草書を書いていますが、炎帝が記したものが基となっていると言われています。
養魚経陶朱公
養魚書最古の養魚書と言われています 。
後漢書范曄
有名な鯉の滝登りの話(黄河の上流、山西省の龍門というところの滝を登った鯉は龍になるという伝説でこの事から「登龍門」の言葉がうまれました)
日本書紀著者不明・巻七
景行天皇の恋の話として
徒然草吉田兼好
鯉ばかりこそ、御前にても切らるるものなれば・・・(鯉だけは御前で調理されるもの・・・)
参考文献
- 新・食品事典 魚 河野友美 著 真珠書院
- 養魚講座第1巻鯉 千葉健治 栗原伸夫 富永正雄 共著 緑書房
- 月刊誌 養殖2002年10月号 緑書房 ~今月の現場メモ「コイの養殖種その特徴と形質 渡辺直樹著」~
- 薬用魚・コイの効用 久保道徳 著
参考サイト